【欧州特許出願】優先権の効力についての新たな判断について

 欧州特許法87条(1)の優先権の規定を受けて、欧州特許審査ガイドライン第6章では、優先権を享受できるための客体の同一性の判断基準が示されています。即ち、第1国出願と、第1国出願を基礎として優先権を主張する欧州特許出願との間で発明が同一とされるためには、当業者の通常の知見を用い「欧州特許出願でクレームされた発明が、第1国出願の記載全体から直接的にかつ一義的に導き出せる場合に限る」とされています。

 このガイドラインを受けて、欧州特許出願のクレームに記載された発明概念が、第1国出願の発明概念よりも広い場合には、上記した「直接的にかつ一義的に導き出せる場合」に該当しないとの理由で、従来優先権は否定されておりました。

 弊所の見解ですが、一般に第2国出願において優先権が有効となるか否かの判断は、第2国出願でクレームされた発明が、「第1国出願の出願当初の書類全体から実質的に裏付けられているか否か」という基準に基づいてなされると思われます。ここで「裏付け」についての判断は、各国における「補正の適否の判断」と「当業者の立場に立った判断」であろうと思われます。ちなみに、優先権の有効性についての我が国の審査基準では、「先の出願の出願当初の明細書又は図面に記載された発明であるか否かは補正における新規事項の例による」とされています。

 当業者の立場に立った判断については正直難しいところです。例えば第1国出願の明細書において、2つの実施形態が記載されているところ、クレーム1では(誤って)第2の実施形態しかカバーできていないような場合があります。このような場合に、第2国出願において、クレーム1で両方の実施形態を含み得るようにしたとき、「当業者であれば第1国出願書類全体を鑑みれば当然そのようなクレームが案出できる」と判断されるかが問題となります。

 ここにきて欧州拡大審判廷は、「複数の優先権を主張した欧州特許出願と、基礎出願との間での客体の同一性について」の新たな審決(G1/15)を示しました。「複数の優先権に基づいた上位概念的なクレームの表現は、その上位概念が個々の基礎出願の発明概念に限定できる限りにおいて、優先権の利益は阻害されない」というものです。

 G1/15に従えば、例えば基礎出願の発明がA+B+Cであり、優先権を主張した欧州特許出願がA+B+D(DCの上位概念)であるとき、A+B+Dは、A+B+Cに関する限りにおいて、優先権の利益は損なわれないことになります。これは、欧州特許出願の補正の適否とは異なる判断となります。(EP特許出願における補正では、A+B+CA+B+Dに補正した場合には、go beyond the scope of original disclosure という理由から補正は認められません。)

 従いまして、例えばA+B+Cの発明に関する第1国出願後に、A+B+Cを記載した刊行物が発行されたり、A+B+Cの要件を供えた製品が販売され、その後第1国の優先権を主張して欧州にA+B+Dの内容で出願した場合に、従来は優先権が認められなかったため、EP特許出願に係る発明は刊行物または製品により「新規性なし」とされておりました。しかし今回の審決により、A+B+Dに内在するA+B+Cの発明について新規性は否定されず、DにおいてCからはみ出した部分については、刊行物や製品から自明か否かが問われることになります。

 また、例えばA+B+Cの発明に関する第1国出願後に、A+B+Dを記載した刊行物が発行されたり、A+B+Dの要件を供えた製品が販売され、その後第1国出願の優先権を主張して欧州にA+B+Dの内容で出願した場合に、今回の審決により、A+B+Dに内在するA+B+Cの発明について新規性は否定されず、DにおいてCからはみ出した部分について、刊行物や製品から「新規性なし」とされることになります。結果的にはA+B+Cへの補正が必要となります。

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